うるま市の平敷屋(へしきや)港からフェリーに乗って30分(高速船だと15分)。これでもかという青空のもと、取材メンバーが進む先は、イチチぬ島で唯一、船を使って渡る津堅島。島の面積の8割を占める畑の、その6 割がにんじん畑なことから、キャロットアイランドとも言われています。それゆえに、乗り場や船体など、様々な場所にちりばめられた人参モチーフの意匠が、旅人のテンションを高めてくれます。
津堅島のニンジンは甘くて美味しいと評判なだけでなく、畑に受ける潮風の影響でカロチンやミネラルなどの栄養価の高さが証明されているとのこと。今回津堅島に訪れたのは、津堅にんじんを使ったドレッシングなどの商品開発に携わっておられる東松根信子さんのお話を聞くためでした。津堅島に到着した僕たちは早速、東松根さんが運営されている、食堂『津堅みやらび』に向かいました。
セリフ:こちらの食堂をされながら、ドレッシングを?
セリフ:はい。食堂が終わったら、昨日もそうですけど人参ドレッシングを夜中からひとりでつくって。人参ゼリーとかもあるんですけど、いまは忙しすぎて手が回らなくてドレッシングだけつくってます。
セリフ:なんだか表に難しい名前が書いてありましたね。
セリフ:『津堅構造 改善センター』ですね。昭和63年からおばあちゃんたちがはじめたんですけれども。義母もやっていたけれど、歳とって代わりにというかたちで今はわたしが。
セリフ:そもそもどういう目的のセンターだったんですか?
セリフ:ここは農村の特産品を加工する場所だったんです。イカの塩辛とかお味噌とか。そこに自分が入って「食堂をしたい」ってなったんですけど、この建物は食堂としての使い道はないですよと言われて。それでもやりたいんだってことをずっと役場の方に話をして、県の農政課の方がいろいろ動いてくださって、2年くらいかかってやっとはじめられました。
セリフ:東松根さんは、こちらに嫁いでこられたんですか?
セリフ:そうです。
セリフ:そもそもはどちらなんですか?
セリフ:屋慶名(やけな)です。
セリフ:勝連半島のほうですね。
セリフ:だから嫁いでくるまで津堅は知らなくて。
セリフ:最初驚いたこととかありますか。
セリフ:全然言葉も違うし、文化も違うし。例えば、晴れてるのに「天気わるいね」って言うから「え!?」って思って聞いたら、波が荒いことを天気がわるいって言うんだって。
セリフ:へえー、空が晴れてても波が荒ければ。
セリフ:そう。でも自分がここに来て一番よかったと思ったのは食なんです。自分たちでつくって自分たちで加工して、自分たちで食べるっていう工程がすごくいいなあと思って。
セリフ:母が家で、いもくず(サツマイモのデンプンを乾燥させたもの)をつくってるんですけど。イモを畑から掘ってきて、洗って、すりおろして。タライみたいなものに入れて水に4時間つけて、その水をこぼして、またつけて、こぼして。取り出したイモのでんぷんを1週間〜2週間ずっと乾かしてっていう工程でつくるんです。すごい難儀して「どこまでやれば気がすむの?」って思うんだけど、うちの子どもたちもこのいもくずが大好きで、食べるたびに、そりゃあ美味しいわけだよねって納得して。こういうものを残していきたいなって思うんですよね。
セリフ:それはくずもちにして食べるんですか?
セリフ:そうそう。そこから食にすごい興味を持って、以前は、なんでも買って食べるし、美味しければ美味しいだけの感動しかなかったんだけど、ここに来てからは、つくった人の苦労とかもどんどんわかるようになってきて、食べることひとつにしても、すごい感動的だなって知りましたね。そういうものがいまの自分になってます。
セリフ:ここで食堂をはじめられたのはいつからですか?
セリフ:平成26年1月4日から。5年目ですね。
セリフ:食堂は他にも何軒かあるんですか?
セリフ:夏場はビーチのほうにもあります。以前はなくて、ターミナルにいるお客さんとゆんたく(おしゃべり)したとき「お腹空いたけど、食堂とかないんですね」って言われて、「すいません、ないんです」って答えてたんです。でも、そのまま帰したくないなと思って、儲かるとは思わないけど、やるしかないと思ってはじめました。加工のついでにできると思ったら、とんでもない。加工は月に2、3回だけだけど、ここはお客さんがいてもいなくても、毎日開けないといけない。でも喜んでもらえればそれで。
セリフ:地元の人も来られるんですか?
セリフ:たまに来ますね。海んちゅとか。もずくの時期になったら、朝お弁当注文されたりとか、人参の時期は畑まで持って行ったりとか。
セリフ:出前ですね。大変!
セリフ:そうそう。畑に出前。お客さんがいたら「待っててね」って言って。
セリフ:パワフルですねえ。
セリフ:今日も午前中はおばあちゃんたちの弁当もあって、農政課の弁当もあって、バタバタしてたときに入ってきたお客さんに「いま忙しいから12時すぎに来てね」って言って。
セリフ:待ってくれるんですね。
セリフ:いまあたらしい商品とか、何か考えてることはありますか?
セリフ:商品じゃないですけど、いまはビーチのところ。
セリフ:ビーチのところとは?
セリフ:いま、ビーチ近くの海の家をリフォームしているんですよ。そこのリフォームを一緒にやってるいる神村くんという子は、島を活性化させていくための仲間というか。OUCHIという民宿をしているお兄ちゃんで、もし誰かが移住してきて、自分たちと一緒にやっていくのであれば、OUCHIを貸してもいいよっていう話をしていました。
セリフ:そんな青年がいるんですね。お会いしたい。
セリフ:神村くんはいまビーチの民宿跡を一生懸命リフォーム中だと思います。あそこを拠点にして観光業を発展させていって、ある程度仕事をつくれたら、移住もしてきやすい雰囲気になるんじゃないということで頑張っています。
セリフ:本島にアパートを借りて、島に通いながら、もずくとりの仕事をしてる人たちとか結構いるんですよ。空き家って言ってもグァンス(位牌)があるので、貸してもらえないところばかりで。だから本島に暮らす島の人たちにお家をつくりたいね、そしたら帰ってきてくれる人もいるよねっていう話をしています。でも、まだまだいまから。やっと少しずつかたちになっていくかなっていうとろこで。
セリフ:すごいです。一歩一歩。
セリフ:ただ、実際、人が足りないというか。
セリフ:そうですよね。そこが一番問題ですよね、きっと。
セリフ:でも仕事があれば呼べるから。ないところには呼べないから。どうしてもつくらないといけないなと思ってる。がんばって両立させていけたらなって。あっちができたからといって、こっちのお店を閉めたら活性化にはならないんで。片方だけよりは、広げていくほうが活性化につながるんで、みんなでがんばってお客さんを呼んでいけたらなと思っています。ビーチのほうも、夏場だけに限らずお客さんを呼べるように。
セリフ:そもそも宿もあまりないんですね。
セリフ:そうです。一昨日も学校の先生が見えてて、夏休みに子どもたちを連れてきたいんだけど、宿泊できるところないかなということで、ビーチとかもまわったんですけど。すでにある宿にはもういっぱみたいで、日帰りするかなっていう話だったんで来年にはできてるから来年また来てくださいって話をしました。
セリフ:ちなみに、その神村さんにもいまからお話伺えないですか?
セリフ:じゃあビーチ行ってみましょうか。
突然の依頼にもかかわらず、ビーチまで案内してくれた東松根さん。食堂から15分ほど車を走らせ辿り着いたそのビーチの美しさに、僕は取材中だというのに、思わず海に飛び込んでしまいました。
うるま市の島嶼(とうしょ)地区のなかで、唯一橋で繋がっていない津堅島までフェリー移動。人生最高に美しい海で取材中なのに海から飛び込んじゃって その後 一人びしょびしょでインタビューした。沖縄の人おおらかだから「最高ですね」って言ってくれて助かったよ。 pic.twitter.com/GAedntJEPo
— 藤本智士 (@Re_Satoshi_F) 2018年7月19日
神村さんがいらっしゃったということで、大慌てでインタビューモードに戻る僕。身体中びしょ濡れで自己紹介する僕を、神村さんはにこやかに迎えてくれました。
セリフ:すみません。我慢できなくて
セリフ:最高ですね(笑)。
セリフ:いやほんとうに理性が崩壊するくらい美しすぎました。作業中のお忙しいところ急にすみません。
セリフ:いえいえ、4ヵ月後には見違えてると思います。2018年10月中にオープンしたいんですけど、どう考えても人手が足りなすぎて。
セリフ:95%くらい神村くん一人で作業やってるので。
セリフ:いまは元の建物を壊してる状況ですか?
セリフ:そう。基本的に骨組みだけ利用します。
セリフ:壊す段階は一番しんどいですよね。
セリフ:たまにヘルプで来る人が70歳とかなんですよ。自分がガンガン壊したものを置いていくから、下に投げ入れてねってお願いするんですけど、30分でひいひい言って、下で水飲んでるんで「おじいちゃ〜ん!」ってなります(笑)。
セリフ:人に応じてやればいいさ。みんな同じことできないものね。
セリフ:暑いしね。今度からブロック洗ってもらおうかな。
セリフ:じゃあ、ほぼ2人なんですか?
セリフ:ほぼほぼ1人です(笑)。
セリフ:すごい。お仕事は民宿をされてるんでしたよね?
セリフ:そうです。
セリフ:もともと島の方なんですか?
セリフ:自分も移住者です。
セリフ:そうなんですね。
セリフ:おじいちゃんがここの生まれで、おじいちゃんの家をリフォームして民宿をはじめて。
セリフ:孫ターンみたいな感じです。
セリフ:逆に言うと、そういうご縁がないと難しい?
セリフ:縁があっても相当難しいと思います。結局、仏壇事情がハードル高いじゃないですか。橋で繋がってるほかの離島でも同じだと思うんですけど、こっちはもっと大変ですよ。橋が繋がってない分、ほかの地域よりいろいろ濃ゆいもんね。
セリフ:そう思えばいきなり移住というよりは、まずお客さんとして来てもらうところから。
セリフ:そうですね。自分は民宿OUCHIっていうのをやってるので、ここがオープンしたら、OUCHIを移住者むけに貸してもいいなと思ってるんです。移住を考えるときに、まずとっかかりになる経験がしたいと思うんですよ
セリフ:だいたい沖縄に来たないちゃーは、那覇とかの本島ですら、うちなータイムがどうだこうだって感じで、うまくすり合わせられない部分がありますよね。それで3年4年でUターンして帰っていくっていうじゃないですか。離島だともっとハードルがえげつないことになってくるので。経験のための宿泊地になってくれるといいなって思ってるんですよ。
セリフ:長めに滞在して、地域とも馴染んでいく。
セリフ:そうです。自分がこのビーチに足をとめる必要が出てくるので、むこうの民宿をマンスリーみたいに活用しようと思ってます。1ヵ月だったらいくら、2ヵ月だったらいくらみたいな感じで、どんどん安くなっていくようにして。
セリフ:それきっとニーズありますよ。
セリフ:たとえば仕事がないと長期滞在できないだろうから、ビーチの方を手伝いながらどうですか? っていう感じで、宿泊者の方の能力を見つつ、できそうなことがあれば一緒に事業に組み入れていきたいですし。やりたいなっていう人がいたら歓迎したいんですよ。個人的にはとにかく外の人を。
セリフ:あたらしい風が。
セリフ:そうそう。欲しすぎて。欲しすぎて。なので来てくれる分にはありがたいですし、もっと言うと年齢が下であればあるほどうれしいです。
セリフ:そんな具体的な話なかなかないと思うので、めちゃめちゃよい話だと思います。
セリフ:ここにいったん住みながら、リアルな物件探しとか家の交渉をしてもらって。つくりかえるってなれば手伝いますし。いろいろ協力できると思います。
セリフ:来てほしいよね。
セリフ:俺たちとしてはね。
セリフ:神村さんは、いつこの島に来たんですか?
セリフ:完全に移住したのが24歳。
セリフ:いまはおいくつですか?
セリフ:30歳です。22〜23歳くらいから改装のために通ってます。
セリフ:食堂と同じ時期くらいのスタートなんですね。
セリフ:そうかもしれないですね。
セリフ:そうだね、ちょっと早いくらいだね。
セリフ:お二人はどうやってつながったんですか?
セリフ:神村くんのお母さんとバレーボールの仲間だったから。
セリフ:ママさんバレーつながり。
セリフ:「私の息子をよろしくお願いします」って。
セリフ:自分は知らなかったけどね。自分の母親は伊計出身なんですよ。父親がこっち出身で。
セリフ:けなし合ってますよ。この年寄りがって言われる(笑)。
セリフ:そうやって言える関係がいいなって思います。
セリフ:やらなければいけないしね。
セリフ:ほとんど2人でまわしてる。離島体験の交流事業とか。
セリフ:そう思えばもっと仲間がほしいですね。
セリフ:移住者の方はやっぱりすぐに理解してくれるので。あと2〜3組くらい来てくれるとありがたいんですけどね。
セリフ:同世代くらいがいいですか?
セリフ:そうですね。あとは自分ができないことを持っててほしいです。俺はネット関係が弱いので。
神村さんがお話された「TSUKEN HOUSE」は、2018年9月末の台風24号の影響などを受けオープン予定が延期となったようです。今も神村さんを中心に、2019年5月オープン目指して改修を重ねています。
空と海の圧倒的なブルーのなか、映える人参のオレンジはまるで太陽。潮風が連れてくるミネラルが土に凝縮されていくように、熱い思いの濃度高まる二人の太陽が、いまあたらしい風を求めています。
ぜひ津堅島へ。